会社には、女性性と男性性のバランスが必要な時代
産業廃棄物業、石坂産業の事業承継ストーリーは今や業界内どころか、経済産業省からもおもてなし大賞を頂かれるほどの企業となり、知る人ぞ知るところとなっています。本書はその石坂産業の創業者の娘で絶体絶命的な危機のタイミングで専務から「お試し社長」に就任。そこからの本物の代表権のある社長となり、業績をV字回復させ蘇らせた、石坂典子氏の三冊目の著書。黄色い表紙に日本ミツバチのイラスト、帯はロングの髪をロールに巻いた女性の笑顔の写真。これだけみれば産廃事業の社長の書いた本とはとても思えない、女性性満開の表紙~装丁。ところが、内容は言われのない誤報で経営危機に陥った会社を、女性的な感性と男性的な決断力で乗り切った、実践の記録。女性性と表現したのは、彼女が産業廃棄物処理の向こうに地球の危機を感じ、処理ではなくリサイクルに舵を切ったその感性。男性性とは、そのために彼女が下した決断の数々、その潔さ!昭和の高度経済成長期の創業社長の多くは、目的に向かって突っ走る、いわゆる男性性優位なタイプが多かった。利害関係者との対話や周囲との調和を計るという発想はあまり持ち合わせていない。著者の父であり創業社長もやはりそうで、誤報であっても周囲を不安がらせたのだから謝りに行こうと著者が提案しても、「悪い事などしていなのだから謝りになんかいかない」という返事。高度成長期はそれでも通用したけれど、これからは、それは、無用の長物。
潔い決断と勇気ある投資
結局、石坂産業は巨額の投資で造ったダイオキシン焼却炉を廃棄せざるを得ませんでした。その後、事業の中心を建設現場の混合廃棄物を分別処理しリサイクルする「減量化プラント」にシフトします。そのブラントへの投資額 40憶!年商25億で、です。さらにプラントの価値を伝えるために2億円かけ見学道路を設置という勇気と覚悟。プランㇳは騒音や埃で周囲に迷惑かけないよう建物でおおわれているのですが、おそらく男性性が優位な方であれば「一円も生まないプラントを覆う建屋などに投資すべきでない」「見学者を受け入れてもお金にならないので見学通路など必要ない」という判断になったと思います。年商の2倍近い投資、その中には生産性には直接関係ない投資も含まれている。生産性には影響しないけれど、会社の価値を伝える必要がある(女性的感性)、価値を伝えることで理解を得れるという客観的判断(男性的)を彼女はしました。
決断の根拠は未来にあった
この本に何度登場するフレーズは、「実現したいその先の未来が描けていた、だから行動できた」です。今、ここの彼女とビジョンを共有できてない周囲の評価ではなく、投資のその先にある未来を軸に彼女は行動した。だから投資も怖くなかったのでしょう。もしくは怖さよりワクワクが優っていたのだと思います。SDGSs(持続可能な社会を創る)という言葉が叫ばれるそのずっと前から、石坂親子はゴミをリサイクルし美しい地球を守るをビジョンに掲げ実践されてきました。創業者の朴訥な思いを、後継者が女性的感性と男性的決断を駆使し洗練させ、最も対立していた近隣住民からの共感を得たのです。
本書のテーマでもある、その一歩先を想像する力が創造を産む。この言葉はゴミ処理だけにとどまらず、私たちが目にする全ての事象に当てはまるのです。