最近読んだ中で久し振りの大ヒット
地方のビジネスホテルを紹介した書籍「巡るサービス」
物語のように、現在このホテルの副社長を務める、
金子兄こと金子卓司氏と
金子妹こと金子裕子氏の曾々祖父で創業者の金子久次郎の代から
一代づつさかのぼり、四代目である二人の両親の仕事に対する姿勢、
夫婦の向き合い方から金子兄妹の生い立ち、
バブル時代に過ごした青春時代のエピソードを交え、
金子家の事業の変遷、根底にある「理念」を紹介しつつ、
地方小都市にありながら平均客室稼働率90%を誇る
「ホテルグーンコア」のサービスの本質を紹介しています。
それは、ただ漫然と読み過ごすとよくある「出来すぎの物語」で
終わってしまう、かもしれません。
しかし、よく行間を読むと、金子家という経営者一族が、
単に時流にのるのが「上手く」て「ラッキー」なのではなく、
リスクも背負いながらも、常にブルーオーシャン、競争の無い世界を
意図的に「選んで」事業を行ってきたかが描かれています。
競争の無い世界と書きましたが、それは、同業他社が少ないとか
参入障壁が高いとか、そういう意味ではなく、
彼らが競争のない、もしくはほぼ起こらない「事業ドメイン」
もしくは、経営理念を掲げてきた、そういう意味です。
※事業ドメインとは、「自分が誰で、お客は誰で、何を提供するか」
もしくは「世界観」という意味で使っています。
物語のスタートは、「愛情」でした。
無償の愛を注がれて育った子は、無償の愛を従業員に注ぎ、
その愛はサービスを通じてお客様に注がれ、利益という
形あるものとなり、事業の元に還ってくる。
それをまた新たに、循環させながら、スパイラルに成長してゆく。
本書のオビにある通り「巡るサービス」=「愛情が生れる場」を
時系列に且つ、登場する従業員のエピソードを交えながら
語られています。
こちらのホテルでは、従業員との会議や研修、ホテルのコンセプトを決める際
経営者・従業員ともに、「マインドマップ」や「フューチャーマッピング」という
ツールを駆使しています。
それは徹底していて、やる気はあるけど仕事が遅い従業員教育をどうするか、
に至まで、「フューチャーマッピング」でチャートを描いて行動計画を創っています。
こちらで紹介されている、ツール「マインドマップ」や
「フューチャーマッピング」を使えば、
こちらのホテルのようなビジネスがたちまち立ち現れます。
という、単純なことではなく、
確かに、「フューチャーマッピング」は自分の思い込みを外し
自由にかつ客観的事実に基づき現実を俯瞰し、行動計画を創る
協力なツールですが、
成果に繋げるには、得たい成果をしっかり持っている必要があります。
「マインドマップ」は、あれもこれもと乱雑になりがちな思考を整理する
強力なツールですが、戦略を創るツールではありません。
「ホテルグリーンコア」の成功は、はじめに経営理念&ビジョンありき。
そして、それを実現する為、現場はスタッフに任せる。
数字の責任まで負わせない。失敗しても大丈夫な環境を作る。
そして、ビジネスホテルにとって顧客価値を実現するため、
あり得ないことに、「一人一人のお客様の要望にお応えする」、を徹底しています。
予約の電話で話し込んだり、備品をお部屋まで運んだり、朝食の時間を早めたり
遅らせたり。
またサービススタッフと呼ばれる清掃係も自社スタッフで、清掃の際のお部屋の
変化を細かく記録し顧客名簿に紐づけられたデータベースに記録しています。
宿泊中のお客様水の入ったコップが置かれていれば、翌日からそのお客様のお部屋に
加湿器を入れる。ゴミ箱に缶ビールが入っていれば、それまで瓶ビールをつけていた
おつまみセットを缶ビールに変える。
宿泊の度にパソコン2台でお仕事されるお客様には、popやホテル案内パンフは
撤去して代わりに背もたれ付きの椅子を準備する等、読めば読むほど、一件不合理な
いわゆる儲からない、人件費のかさむサービスが奨励されています。
しかし、本文にあるようにこの一件不合理なサービスをブレずに続けると、
じわりと長期利益を積み上げることも納得がいきます。
つまりリピーターが増えてゆく、周辺にビジネスホテルがあっても、まず
ホテルグリーンコアから予約が入り土曜日でも客室か同率95%を上回る、
という結果を出しています。
そして何よりそうした、一件不合理な顧客の苦情対応と紙一重なサービスを
提供し続ける中で、いつしか顧客との信頼関係が深まり、その絆が従業員の
働く悦びと成長を促しています。